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![]() ![]() << スピンテック・バッテリーマネージャー・v2 >> SPINTEC Battery Manager v2 液晶パネル修理と放電性能解析 * 記事を掲載 2008/2/20
去年、知人のK氏が持っていた放電器『SPINTEC Battery Manager v2』の液晶パネルが割れた!そうで、交換できそうな液晶パネルの相談を受けていました。
過去に同様の交換をして直したという話があったそうで、それなら同じような物で・・・という事で日本橋の部品店で売っている汎用の液晶パネルを紹介しておいたのですが、どうやらSPINTEC Battery Manager v2に元から付いている液晶パネルとは端子配列が違う為にK氏の側では修理不能となり、私のところに修理にやってきました。 ついでに「本当に35A放電しているのか?」「表示される容量やデータは正確か?」「デスチャージャーでは無いのか?」等も調べて返すことになったので、ここでその過程と結果をレポートします。
![]() わずか7.5cm×7cmのアルミ放熱板の中心に回路と液晶パネルを組み込んだ小型でスタイリッシュな放電器で、4〜8セル対応、35A/10Aの放電電流切替、CC/CV/CPの3モード切替、放電容量やエネルギー(ジュール)が液晶に表示されるといった高性能を謡う放電器です。
・・・と、まぁ、説明だけ読んでいると物凄く高性能な放電器のような気がしてきます。 値段は1万円以上もしますから、もしこれでデスチャージャーだったら目も当てられませんね。 果たして性能は本当に? それは後ほど調べてみましよう。
![]() 右の写真のように見事に液晶パネルのガラスが割れて、中の液晶が潰れてしまっています。 黒くなった部分だけ文字が読めないのならまだなんとか使えるでしょうが、ガラス内面の透明基板が割れて液晶表示器として完全に動作しなくなってしまっていました。文字は1つも表示されません。 ここまで完全に壊れれば、もう新品の液晶パネルと交換するしかありません。 しかしこのBattery Manager v2に使用されている液晶パネルはカスタム品のようで、通常の16文字×4行や20文字×4行ではなく、16文字×3行という変な規格で、後で判明しますがどうやら表示用メモリーの配置も違うかなりヘンテコな液晶のようです。 K氏情報で「Battery Manager v2の液晶が割れたのを交換した人が居る」との情報を得ていたので、「多分ごく普通のHD44780互換の液晶パネルで行けるだろう」と想像し、HD44780互換の液晶パネルをK氏に買っておいてもらったのでそれを接続する作業が待っていました。 その以前に交換した人は20文字×4行液晶を使用して表示が崩れた(文字の表示位置がおかしい)との事だったので、「16文字×4行なら行けるのでは?」という思いが強かったらしくデジットで売られている16文字×4行タイプの液晶パネルを買ったということ。(20文字×4行を買っていてくれたら‥‥と思っても後の祭り) ![]() ・・・・確かにそれでは液晶パネルに詳しい人でないと繋げませんね(^^; 蓋を開けて中の基板を取り出すと右の写真のような感じで、表側には液晶パネルが大半を占めていて、残りはスイッチ・ダイオード・トランジスタという比較的場所を取る部品が。 部品面にフラットパッケージ版のPIC 16F688が一個とチップ部品が多数です。 液晶パネルの各ピンまわりの配線がPICや電源とどう繋がっているかをザッと眺めたら、基本的なHD44780互換インタフェースで、4ビット・片方向(書き込み専用)仕様で使っていることがわかります。 データバスのDB1〜DB8は一目で順番がわかりますが、制御信号のRS信号とE信号はどっちがどっちか見た目だけでは分かりませんから、オシロスコープで信号を見て判断します。 まぁ、この2本を間違ったからといって液晶が壊れることは無いので実基板につないで見てカットアンドトライで調べてもいいのですが、オシロで見て確認できる物なので事前に調べておきましよう。
17〜20ピンはコントラスト調節用の端子で、外部コンデンサがつけられています。(普通の汎用液晶パネルでは基板に内蔵) ![]() 今回の16×4液晶ですが、一般的な大きさの液晶パネルなのですが・・・この液晶パネルとv2本体の大きさがほぼ同じ! 元のケース(放熱板)の中に組み込んでしまう事はできませんので、後で何か適当なケースをみつけて固定してもらいましょう。 今回は元の壊れた液晶パネルは取り外しませんでした。 いや、普通は取り外したほうが良いのですが、今回は液晶の表示部は壊れていても制御回路のほうは壊れていないという事、そして「元の液晶のバックライトの点滅で放電終了をお知らせしてくれる機能が生きている」ということで、バックライトをこの終了インジケーターとして利用するために壊れた液晶はそのままにしています。 ・・・交換用の液晶パネルが「バックライトつき」タイプならそこに配線してしまえば、新液晶のほうも旧液晶と同じくバックライトが点滅してお知らせ機能が使えたのですが、交換用の液晶が「バックライトなし」タイプだったのでインジケーターをどこかに残さなければなりません。 今回の液晶インタフェースが「書き込み専用」で使用していて、液晶コントローラーからは何も信号を取り出さないので、旧液晶と新液晶を並列に繋いでしまっても全然平気!という電気回路的なOKもあってのことですが・・・ さて、配線ミスのチェックや、交換用液晶に必要な「コントラスト調節用半固定抵抗」もつけて準備万端。 バッテリーを繋いで表示を見たら・・・ 本体側のバックライトは点灯しますが、交換用液晶には全く何も表示されません。 あれ、配線ミス?、それともDB0〜DB7の順番を読み間違えたとか? 何度配線を見直しても間違いは無し。 コントラスト調節VRのハンダづけミスとか? ・・・・色々と原因を考えても特におかしなところは無く、全く何も表示されません。 30分ほど悩んだ挙句に「全く何も表示しない」という点にピンときました。 普通このタイプの液晶パネルは、コマンドを正常に受け取らなくて表示機能が初期化されない場合「コントラスト調節用VRを端まで回すと、1行が黒くなり1行が明るいまま(4行液晶では交互)になる」はずなのです。 しかしVRをどちらの端まで回しても全く白いまま変化がありません。 ・・・電源が来て無いかおかしい? そこで放電器基板の電源電圧を計ってみると・・・3Vでした_| ̄|○ それゃ電源5Vの液晶パネルは3Vでは動きませんよ。 だいたい4Vで限界です。4Vより少し下がっても回路は動作しますが、液晶表示が薄くなって読めません。ましてや3Vでは・・・ 液晶に別途5Vの電源を(もちろん放電器基板とは別に)繋いでみたら、サクっと表示してくれました。 HD44780互換のコントローラでは、液晶側が5Vで放電器側が3Vでもデジタル的にはH/Lは正しく読み込まれます。 ![]() 液晶パネル側に超低ドロップタイプの5V三端子レギュレータHT7550をとりつけ、放電器基板の電源とは別にバッテリー入力から整流用ダイオードを通った電源点にHT7550に電源供給する事で液晶パネルはバッテリー電圧が5V程度に下がるまでは正常に表示します。 (6セルパックで0.8V設定でも4.8V迄なのでギリギリOK?) ![]() 液晶パネル側のピンアサインは製品により違いますので、交換される際には液晶パネルの説明書をよくお読みください。 ![]() やはり元の本体のカスタム液晶と汎用16文字×4行液晶では表示メモリーの配列が違うので、画面表示の位置が崩れます。 まぁ必要最低限の情報は見れますし、操作自体にはほぼ影響が無いので今はこれでよしとしましょう。 ※ 写真はまだテスト中で蓋をしていません
1万円以上する高価な放電器を「液晶が壊れた、もう使えない」として廃棄するか、ちょっと外部液晶が邪魔で文字表示も多少崩れていますが「放電器としては使いつづけられる」かでは雲泥の差でしょうから。 ![]() もちろんこの液晶パネルも電源は5Vですから、16×4液晶の裏につけたHT7550から電源は供給します。コントラスト調節はパネルの裏に10KΩの半固定を1つ付けています。他の配線は全部パラです。 既に16×4液晶が動作しているのでサクっと表示はOK。 両方の液晶表示を比べるとこんな感じです。(放電中) ![]() ● 元の表示レイアウト (数字は説明用に適当に入れています)
● 20文字×4行液晶に表示すると
表示位置はズレていますが、文字の欠落は無いので放電器を操作したり、結果を見たりするのには問題は無いようです。 「なぜ1行目の続きが3行目に表示されるの?」と疑問を持たれるかもしれません。 その理由は液晶パネルの内部メモリーのアドレスマッピングの方法にあります。 20文字×4行の液晶パネルのアドレスマッピングは次のようになっています。
その続きはというと、アドレスが一気に40Hまで飛んで、2行目は40H〜53H、その続きが4行目で54H〜67Hと全部で20×4の80文字を表示できます。 表示行が飛び飛びになっていてとても面倒ですが、液晶コントローラHD44780の仕様でパネルを作るとこういう物になってしまうので仕方ありません。市販の16×2行液晶ではこの配置の上2行だけを使っていますし、20×4行パネルはほぼ全てこの配置です。 SPINTEC Battery Manager v2で使用されている16文字×3行の液晶パネルは特殊なつくりで、アドレスマッピングは上から1行目→2行目、3行目と連続しているようで(3行目は連続か40Hに飛んでいるのかは不明)、そういう液晶パネルは市販品では見つけることができません。(しかも3Vだし…) ● 16文字×4行液晶に表示すると
しかし後半8キャラクタを表示している2行目も、文字の桁位置がおかしく表示する文字が左端にダブって表示されてしまいます。 この左端にダブって表示されてしまう現象は他にも20文字×4行液晶(今回使用した物とは別の物)でも起きるようですので、「16×4タイプだから」というわけではなく、何か液晶パネル(HD44780互換コントローラ?)固有のトラブルっぽいです。 2行目がズレかどうかは別にしても、SPINTEC Battery Manager v2の液晶パネルが割れた場合、交換には文字情報の欠落の無い20文字×4行タイプの液晶パネルを買ってつなぎましょう。 いや、今使っている方は、この壊れやすそうな薄いガラスを使用した液晶パネルを割らないように、前面に透明アクリルか何かで保護を施したほうがいいですね。
私がはじめてBattery Manager v2を見せてもらった時にはちょっとショックでした。
この小さなボディに「10 & 35A」なんて放電電流表記がプリントされているのです。 「35Aで放電させるけどバッテリーが熱くならない放電器だよ」という話なのです。 確かにその為か、たいへん太いケーブルが本体から2本生えています。 でもちょっと待って! もし7.2Vパックで35Aも流したとしたら・・・252Wですよ! こんな小さな放熱板ではとても触れないくらいに高温になって、中の電子回路や、高温に弱い液晶パネルはあっというまにオシャカ(死語)になってしまいます。 「放熱板はそこそこ熱くなるよ」とは言われたものの、そんな水をかけたら沸騰しそうな高温にはならないという話です。 もちろん本当にバッテリーから35Aも流しつづけたら、普通のパックなら数分でバッテリーが空になってしまいます。もちろんバッテリーの発熱も尋常じゃないでしよう。 でも、そんなことも無いようです。 「クールなんとかシステムが冷やしてくれてるんでは?」と、持ち主自身も全くこの放電器の中身についてはわからない状態です。 「クールなんとかシステム」とは「10A & 35A Coolflex current conditions the pack」と説明されている物ですね。 「クール」と「フレックス」で何か「冷却機能を可変させている」ような雰囲気の言葉になっています。 温度上昇を感知して放電電流を制御するようなしくみなのでしょうか。 それにしても、この小さなボディで35Aなんていうとんでもない電流で放電できるものなのか、謎は深まるばかりです。 中の基板の回路を調べて、その真相を探ってみましょう。 ● ブロック図 ![]() ![]() で、肝心の放電回路ですが、ご覧のように負荷抵抗も無く、逆接防止のショットキーバリアダイオードとパワートランジスタが直列に接続されているだけです! 電流制限は、PICの出力から「抵抗を一本だけ通してベース電流(大)を流す」のか「抵抗を二本直列に通してベース電流(小)を流す」のかの二種類の動作ができます。 これが「35A(大)」と「10A(小)」の切替なのでしょうか。 しかし、これで本当に35Aなんて電流を流しつづけたら、あっというまにパワートランジスタは過熱して焼けてしまいますよ。(いや、ダイオードももたないし・・・) ![]() 1パルスのピークでは最大35A程流れるのかもしれませんが、普通に言う「35A放電」なんて事は絶対にありません。 6セルパックのタミヤニカド1600SPを繋いでまずはCCモードで観測した結果では、パルス幅約0.75msec、一周期約26msecでデューティは約2.88%、周波数は約38.5Hzです。 ※ これはオシロの波形から読み取った数値で、実際のプログラム中では1/35で0.02857くらいで計算されているようです。 この状態で、パルス中では35A電流が流れていたとしても 35 × 0.0288 = 1.008A となり。普通に言うところの「1A放電」相当になります。 「35A放電だぜ!」とか思っていた人にはかなりショックな数値かもしれません。 Battery Manager v2のウリ文句のCoolflex方式とは、この程度のデューティ比のパルス放電でした。 「パルスで放電してるみたいだけど、それは実車でのパルス制御の放電パターンと似せていて、より実際の使用と同じ環境でバッテリーを馴らしてくれるんじゃないの?」とかいう感じの期待めいた話も聞きましたが、全く、全然、こんな短いパルスで駆動するならマシンはスロットルをちょっとだけ開いた状態でノロノロ運転。コースを数時間かけてノロノロと走るレースがあればそれには対応していると言えなくはないですが、普通の走行のようにもっと高いPWM周波数でデューティ比もずっと幅広く、フルスロットルの時には100%で電流も流しますし全体としての消費電流ももっと多くなければ全く「実戦に似た状況でバッテリーを馴らす」なんて効果はありません。 (大きな電流で一気に使う使い方をしたら、バッテリーが大電流に慣れてパンチが出る・・・という理論についても眉唾ですが) ラジコン用パックバッテリーに対しての放電電流値として見るならば、「少ない電流でチビチビ放電して、残りが無いようにしっかり放電してやろう」系の小電流放電器のようです。 やはり広告の文言や、大きなアルミ製の放熱板などから感じる「35A放電だぜ!」というハイパワー放電器とは全く正反対の性格のようで・・・。 ● CC / 定電流放電モード ![]() マニュアルによると次のようになっています。
そこで、K氏より「最近調子が悪いので復活させたい」と言われテスト用に一緒に預かったタミヤのニカドパック1600SPをMX-301で充電した後にSPINTEC Battery Manager v2で放電してみました。 1600SPは1600mAhのニカドパックですが、1C充電するとK氏の元でも私の所でも約1400mAhを越えたところでΔピークが現れそこから電圧低下、充電器は1430〜1470mAh程度で満充電と判断して充電を停止します。 さて、そういう状態の1600SPをSPINTEC Battery Manager v2で「CC / 35A / 0.9VperCell(5.4V)」で放電した時のグラフです。 ※ マニュアルには35Aモードは高容量(3300以上)パックで使用すること、低容量パックは10Aモードを使用することと指定されていますが、今回は実験の為に行っています。 ![]() ※ パルス放電を測定していますので多少ギザギザしています
放電終了まで約2時間弱かかりました。液晶画面の表示では「178.5s 1736mAh」。これは「実際の放電を178.5秒しました。35Aで放電したとして容量は1736mAhです。」という表示です。 2時間かけて放電しましたが、実際に電流が流れていたのはたった178.5秒。 放電中の液晶表示の秒数も秒数表示で経過時間を表示しているのではなく、1/35のスピードでゆっくりゆっくりとカウントアップされています。実際に使われていた方は「このあまりに遅い秒数は何?」と思われたかもしれません。 重ねて言いますが、もしこのバッテリーを35Aなんて大電流で放電したら3分持ちません! それが約2時間かかるという事は、35Aなんて大電流で放電しているのではなく、この場合1400mAhを2時間で平均電流で約700mA程度の放電を行っているということが確認できます。 あれ?・・・「35Aモードでは35A×デューティ28.8%で約1A」ではなかったですか? 実際にパルス状に放電しているバッテリーから流れる電流を計測してみると、放電器のトランジスタがほぼ飽和状態で電流を流すようになっていても、最大でも20A台の中ほどしかピーク電流は流れていません。 つまりは負荷は大きいのですがバッテリー側にじゅうぶんな電流供給能力が無くて、ピーク35Aなんて流せていないという事です。 マニュアルの35Aモードは高容量(3300以上)パックで使用すること、低容量パックは10Aモードを使用すること、という注意書きに従わなかったので低容量パックではこのような設計値より少ない電流しか流せなかったのでしょう。 実際に使われる際には正しくマニュアルの指定に従って、低容量バッテリーは10Aモードで放電しましょう。 でないと、SPINTEC Battery Manager v2には定電流回路や電流を検知する回路はありません。実際の電流は知ることができないのです。 そこでバッテリーから34A放電モード時の適正電流が流れていないにも関わらず、液晶パネルに表示するデータは「35Aモードで正しく放電しているつもり」で計算した結果を表示します。 本当は「電流が少なくて放電完了まで時間が余計にかかっている」のに、それを知らずに時間だけで表示するのです。 「弱っている1600mAhのバッテリーなのに1700mAhも放電できたぜ、SPINTEC Battery Manager v2で放電するとすっげー復活する!この放電器はスゴイよ!」とは勘違いしないように。 次に「35Aで放電してもバッテリーが発熱しない」とSPINTEC Battery Manager v2の利点の1つとされている温度上昇の抑制について。 もちろんもう既に「35A放電」という数値に惑わされている人は居ないと思いますが、果たしてCoolflexシステムはバッテリーの温度を上昇させない画期的な方法なのでしょうか。
上のグラフの実験でこの1600SPを35Aモードで放電させると平均約600mA程度の放電電流だとわかりました。 そこでMX-301で同じ時間くらいで放電完了するよう、「600mAリニア定電流放電」をさせてみて電池の電圧や温度がどのような挙動を示すのかを調べて比較してみましょう。 ![]() 6セル中の1セルがガクンと電圧低下して、その後他のセルの電圧低下で設定値の5.4Vを下回り放電が終了する、このバッテリーパック個体の挙動は全く同じです。 さて温度も・・・放電開始時には充電完了後約1時間でまだ室温より高い約25℃ですが、そこから放電中も特に大きな温度上昇は無く横這いしつつ少し冷めるくらい、そして1セルが過放電になってちょっと発熱するところまでの挙動も全く同じです。 Coolflexという仰々しい名前が付けられていますが、ただのパルス放電で平均電流値で見ればふつうの小電流リニア放電と比べて何か凄い利点があるとか、そういった事も特にありません。 「放電させた時に温度が上がらない」という宣伝文句は正しいです。 確かに、温度が上がるような放電は最初からさせていないのですから。 利用者は、表記上の“35Aマジック”と共に、それを更に強調する“Coolflexマジック”という魔術をかけられているのかもしれませんね。 ● 10A放電モードの怪 ブロック図のところで説明しましたように、35A/10Aの切り替えはPICマイコンの出力ピンを操作して「35A:抵抗を一本だけ通してベース電流(大)を流す」のか「10A:抵抗を二本直列に通してベース電流(小)を流す」を切り替えています。 10Aモードでは1600SPでもほぼ正しく10Aのパルス電流が取り出せています。 放電電流の平均値は10Aモードでは約325mAまたは約400mAで放電させるよう設計されているようです。(電圧により変わります) さて、10Aモードで1600SPを放電させてみると・・・
放電中の時間カウントはぐるぐる回ります。終了までの時間で平均すると11.16秒に1sと表示するくらいのスピードです。 パルスのデューティは400mA動作時で約3.846%ですから、26秒で1sとカウントしなければなりません。 放電にかかった時間は約3時間20分。実際の放電時間は461.52秒で0.1282時間。それに10Aを掛ければ1282mAhとMX-301で放電した際の1279mAhと酷似しますから数値的には出しいはずです。 1076秒で2989mAhという表示をしている所から、10Aモードの時には「時間×10A」で計算していることは確かなようです。 26秒に1sとカウントすべき所を11.16秒に1sとカウントしてしまっているという事は、約2.33倍も時間を計算間違いしています。これはプログラムのバグ!? 先に、実際に使われる際には正しくマニュアルの指定に従って、低容量バッテリーは10Aモードで放電しましょう。とは書きましたが、10Aモードでは表示が全く正しくありません! なんだかもう、SPINTEC Battery Manager v2の10Aモードの数値表示は全くアテにならない、という感じです。 これは低容量バッテリーは測定するな!という事でしょうか。 ● CV / 定電圧放電モード ![]() マニュアルによると次のようになっています。
「カット電圧になると、負荷が軽減されてパックから最大限エネルギーを取り出します。」「4ステップあり」等と書かれていますね。 「古くなったセルを復活させるのに最適!」とも書かれています。 そこで動作を調べてみると・・・最初はカット電圧まで普通に35A/10A放電をする。 放電が終わったら、プログラムされた電流値に変えて「1回目の追加放電」「2回目の追加放電」「3回目の追加放電」「4回目の追加放電」と合計4回にわたって放電を繰り返すモードでした。 つまり「大電流放電だと、電池の内部抵抗の関係で中に電力が残るので、放電終了後に電流を少なくして残った電力を吸い出そう!」という放電プログラムです。 よく単純にセルの容量を吸い尽くす為にはカット電圧を下げて低電圧まで過放電させるような方法が薦められていますが、このCVモードでは絶対にカット電圧以下にはバッテリーパックの電圧を下げないので、過放電に弱いニッケル水素バッテリーから最大限に容量を吸い尽くす為には良い方法といえます。
それぞれの電流値は放電パルスの幅を変えています。 尚、各モードの最初では約1分程度バッテリーの電圧を監視していて、規定電圧より上に回復しない場合は「弱いバッテリー」とみなしてそのステップをスキップして次のステップに進みます。 液晶画面の表示は、最初の通常の35A/10Aモードの放電が終了した時点での経過時間や容量が表示されたままで、この4ステップの進行中の放電時間・容量は加算されないようです。 ● CP / 定電力放電モード ![]() マニュアルによると次のようになっています。
「早く放電したい時」「フル充電のバッテリーを放電する時」などに使うように書かれています。 6セルモードでパルス幅を測定した結果
定電力とは言うものの、電圧が下がる程に電力は大きくなってゆくんですけど・・・。 それほど細かく数値計算して定電力になるようにパルス幅を制御しているのではなく、単に「何V台の場合はデューティ何%」という感じの制御でした。 確かに「早く放電したい!」という時には良いのではないでしょうか。 ● そして、隠し機能か!?『追い放電』機能 ![]() CC/CV/CPいずれのモードでも設定したカット電圧で正しく放電を終了してくれるので放電中に誤って過放電してしまうことは無く安心できます。 ダイオードと抵抗だけの簡易放電器では正しくカットされず、「ランプが消えたらバッテリーを外して下さい」という物が多いのですが、この放電器のように電子回路で制御しているものはカット電圧になったら放電を停止してそれ以上はバッテリーが放電しないようなしくみになっている事が重要な機能です。 「放電が終了すると、バックライトが点滅して終了を知らせてくれ、液晶画面でデータを見ることができます。」「バッテリーを取り外しできます。」と説明書には書かれていますが、放電が終わったらすぐに取り外したほうがいいのか、それともつなぎっぱなしにしておいても大丈夫なのかの説明は一切ありません。 そこで放電完了後もしばらく放置してみました。 ![]() あらあら大変!、たった40分放置で電圧は4.5Vを割り込んでしまっています! ※ これは1600SPの場合です。
実はこれ、バックライト点灯電流が約50mAも流れているためで、CC/CV/CPのどのモードが終了してもバックライトが点滅している間(点滅デューティ3/4)はずっと小電流で放電を続けていることになります。 既に放電を完了しているバッテリーにはもうほとんど電気は残っていませんから、50mA程度の少ない電流でもこのようにすぐにバッテリー電圧が下がってしまうのは当然ですね。(バッテリーの定格容量や劣化により電圧低下する早さは異なります) 4.5Vを割るあたりで一旦安定するのは、LED点灯に必要な電圧とLED点灯回路の仕様によるものです。 かなり目立つ赤いLEDのバックライトが点滅するのは、「放電が終わったよ」という感じの優しいお知らせ機能ではなく、「急いでバッテリーを外して!でないと過放電しちゃうよ!早く早く、タスケテー!」という声無き恐怖の叫びだったのです。 放電終了後1時間20分で「スリープモード」に切り替わって、バックライトが消えて液晶画面も「SLEEP」表示になります。(PICマイコンがSLEEPしているかどうかは確認していませんが、多分しているのでしよう) ですから過放電状態がずっと続いてバッテリーにダメージを与えるデスチャージーでは無いと思いますが、一旦放電を終えた後にこれほどバッテリー電圧を下げるまで続けて放電してしまうこの機能を隠れた『追い放電機能』と名付けましょう。 CVモードなんて必要ありませんよ。放電完了後もわずか1時間ちょっと放置するだけで『追い放電機能』でガッツリと残容量を放電してくれるたいへん素晴らしい放電器です!
液晶表示パネルの修理という事でお預かりしたSPINTEC Battery Manager v2ですが、なかなかに興味深い放電器でした。
液晶パネルは特殊な物で、一般的な市販品では文字が表示はできても元通りというわけにはゆかないのは残念です。 そして放電機能、「35A」という凄く大きな電流数値が書かれていて「35Aでもバッテリーが過熱しない?」とレーサーの間でも疑問視されていた放電プロセスはたった1A相当のパルス放電だったこと、また10Aモードの数値表示があまりにおかしな数値だったこと、そしてマニュアルにも書かれていないヒミツ機能の『追い放電機能』など、発見の多い放電器でした。 35Aモードで3300以上の高容量バッテリーを放電させるのであれば、ほぼ表示される数値も正確ですし、「バッテリーは冷たいまま放電できる」といううたい文句にも間違いはありません(^^; ただ修理依頼のK氏のように、タミヤのレースに出るために1600SPのコンディションを整えて「容量を確認しよう」という用途ではちょっとお勧めはできない放電器ですね。 小容量バッテリーでは表示される容量などのデータ・数値を無視して、単純に放電電流が1Aと400mAから選べて、セル数やカット電圧、放電パターン(CC/CV/CP)を細かく設定できる放電器!として見るならそこそこ良い品ではないでしょうか。 最後に、今回の測定は全て6セルパックを対象とし、6セル設定で行っています。他のセル数設定では電流値やパルスのデューティ比などがまた違った物である可能性はありますので、その点については未測定ですのでこ了承ください。
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