気の迷い ★★ 小ネタ集 ★★ 100円ショップパーツ流用 自転車LEDライトの点滅改造 ** 現地生産工場の「中華式製品管理」の真髄を見た! **
100円ショップ自転車ライトの白色LED化記事で改造したライトを、こんどはピカピカ点滅するように改良しましょう。
夜間走行の目印効果UP間違いなし! LEDの点滅回路は普通に考えると いや別に、自分で作るぶんにはなんでも構わないのですが、やはりここは誰にでも簡単に手に入る物を使って、それでいて少しだけ電子工作の気分が味わえる加工を行うことにします。 元は「100円ショップの自転車ライト」ですから、今回の改造でも『100円ショップで売っているあのパーツ』を心臓部に使用することにしましょう。 相変わらず、高い部品や高級回路は使わずに、貧乏一直線で今回もスタートします。
さてさて、今回の点滅ライトの心臓部である「点滅・発振回路」を100円ショップで探してみましょう。
まず目に付くのは『自転車用、LED点滅ライト』といった感じの安全灯です。 赤色LEDが3〜5個くらいついていて、なんと5〜7種類もの点滅パターンが選べます。 「ほとんどそのまんま使えるんじゃ?」と思ってしまいますが、点滅パターンを選ぶスイッチをライトに付けるのも面倒ですので、これはパス。 (今回の改造記事を読めば、LED点滅ライトを流用しても作れます) さてもう1つ、100円ショップで有名な『光りモノ』といえば・・・ そう、写真の「デコレーションプチライト」(ザ・ダイソー)ですね。 クリスマスツリー等の装飾用に、「点滅タイプ」と「常時点灯タイプ」、色も「赤」と「緑」、LEDも「5mm砲弾型×15個」「3mm砲弾型×20個」「ハート型プラスチック埋め込みLED×11個」「星型プラスチック埋め込みLED×11個」などバリエーションも豊富です。(一部緑と書いてるのにオレンジ色LEDの品も…) イルミネーションに使うなら点滅型を数個買って来て同時に点灯すれば、点滅周期の微妙な個体差で全体としては複雑な点滅となってとてもきれいです。 今回は自転車ライトの点滅用に使用しますので「点滅タイプ」を購入します。 LEDの色や形はなんでも良いです。どうせ今回は使いませんので…
ネジを外して電池ボックス上部を開くと、電源スイッチと共に左の写真のような小さな基板が入っています。この基板が「点滅回路」です。
今購入できる大半の品にはトランジスタにS8550を使用している左側の基板が入っています。 旧製品ではSS9012を使用した右側の基板が入っています。(トランジスタは共に中国製) どちらも回路図は同じなのですが、モールドチップの向き(レイアウト)が全く逆なので、基板パターンが左右反対になっていますので注意が必要です。 ところが!配線が左右逆のはずなのに、写真のトランジスタはどちらも同じ方向(部品番号の印刷面/表面が向こう側を向いている)にとりつけられているではありませんか!? S8550もSS9012もどちらも同じピン配置(表側からE-B-C)で、配線が逆なのに同じ向きでとりつけられているS8550はどう考えても大間違いなのです。 「S8550の仕様が変わってC-B-E配置になってる?」「実はS8550に見せかけて別のトランジスタ?」とか不思議な想像が頭の中に次々に沸いてきますが、順に追って確かめてゆきましょう。 なんだか本題以外に解決しなければならない大問題勃発って感じです。まさに『気になって気になってしようがない』のでこれは確かめなければ夜も眠れません。 こちらがデコレーションプチライトの回路図です。 発振回路の入ったIC(基板ではモールドの中)の出力でトランジスタのベース電流を断続的に流したり切ったりし、それに連動してコレクタ側に接続されているLED(11〜20個)に電流を流して点滅させるしくみです。 LEDには電流制限抵抗は入っておらず、乱暴な回路となっています。 旧式のSS9012が付いた基板では回路図通りに正しく組み立てられていましたが、S8550がついた新しい基板ではトランジスタが逆向きにとりつけられています。 逆向きにとりつけられていると、正常に動作するはずが無いのですが、なぜかLEDは点滅しています。これは中華4千年の秘技なのでしょうか? 山奥の秘境で修行をした達人のみが成しえるという、「気」の力で人体内部の臓器を全て左右反転させるという秘術を施した「幻の中華トランジスタ」なのでしょうか!? 全ての謎はこの後遂に明かされます! チャンネルはそのまま!! ◇ お願い ◇ 電子回路の難しい話は嫌い!という方は、このページのずっと下の『改造回路図と部品の選定』の項まで一気に読み飛ばしてください。 ここからしばらくはかなりややこしい話になりますので、読むとじんましんが出てしまうかもしれません。 しかし幻の中華トランジスタの謎を解くカギはこの中にしかありません。 ● トランジスタの動作原理の「謎」を解く かなりわき道に逸れますが、ここでトランジスタの動作をおさらいしておきましょう。 今回使われているS8550もSS9012もどちらもPNPタイプのトランジスタです。
海より深い謎を解くべく実験です。 基板からS8550をとりはずし、ブレッドボード上で「正しい配線」「逆の配線」の両方で動作を確認できるようにします。 その結果…両方とも動作しました! どちらでもLEDは点灯(点滅)しています。 激しくアンビリ〜バボ〜!です。 逆接続実験とは別に、「S8550の仕様が変わってC-B-E配置になってる?」「実はS8550に見せかけて別のトランジスタ?」という考えられない疑問を解消すべく、S8550単体で増幅度(hfe)の試験をしましたが、3本の足は正しく[E-B-C]配置でE→B間に電流を流した場合にのみ増幅動作を行いました。 つまりはS8550が何か違うトランジスタというわけではなく、やはりただの付け間違い!だろうということなのです。
しかし実験で面白い現象が確認できました。 それは、『エミッタとコレクタを逆に接続した場合でも、ベースに一定以上の電流を流すようにするとコレクタ−エミッタ間が導通してしまう』という現象です。 これはこう考えられます。 PNPトランジスタの構造はこのようになっています。 N型半導体をP型半導体で挟むような構造になっていて、エミッタ−コレクタ間は逆向きのPN接合が向かい合っているので電流は流れません。 (電流はPからNの一方通行でしか流れない) エミッタ−ベース間のPN接合部にはエミッタ側を+、ベース側を−にしてやると一方通行で電流が流れます。(ベース電流) ベースに電流が流れると、PNPの順で接合されている半導体の中をベース電流の大きさに比例(数百倍)して電子が移動できる状態になり、エミッタ→ コレクタ間にも電流が流れます。トランジスタの増幅作用です。 普通はエミッタとコレクタには製造時に性格付けがなされているので逆接続をしても増幅動作はしませんが、一定の電流値を超えるとどちらも同じPN接合同士なので性格づけが崩壊(飽和)してPNP接合部を電子が移動できるようになってしまうものと考えられます。 S8550以外にも、国産のPNPトランジスタ数種でも実験してみましたが、同じ結果が得られました。 ※ トランジスタを壊してしまう恐れがありますので、よいこのみんなはマネをしないでください。
【結論】 今回のデコレーションプチライトでは、トランジスタのベースの電流制限用抵抗は全く取り付けられてなく、ICの出力端子の内部抵抗のみとなっています。 ですので逆接続状態を崩壊させるのにじゅうぶんなベース電流がトランジスタに流れ(飽和状態)、逆向きに取り付けられているにも関わらずLEDが点灯してしまっているのです。 実はこれは中国製トランジスタの足がE−B−C配置だった(中国製はほとんどそう)ことによる偶然の出来事で、日本製のE−C−B配置では取り付けを間違ったら今回のような動作はしません。 つまりは・・・偶然動作してしまってはいるものの、今回の製品を作った中国の工場では製品の組み立て管理がここまで"ずさん"だということなのです。回路図通りかどうかなんてチェックしていません。ある意味発売元のダイソーにも責任があるんじゃないかと思うのですが。 LED部の違う数種類のデコレーションプチライトを購入して分解してみましたが、今回(2006/10)に近所のダイソー数店舗で別々に購入したものは全てトランジスタ逆付けでした。一回の生産で数千個、数万個単位で基板部分を作っているのでしょう。それが全て逆付けの可能性も・・・ 今回の製品ではLEDが点灯しているので良いのですが(あまり良くは無いが…)、もしこれが長時間点灯させていたらトランジスタが損壊して点灯しなくなる、発熱・発火を引き起こすような不具合だったらと思うとゾッとしますね。 ● 気を取り直して、流用は可能か? つまらないことで時間と労力を使ってしまいました。 本来なら回路図を書いて、改造ポイントを探して改造するだけで済んだのです。 目的の前に疲れてしまいました・・・ 改めて回路図を見てみましょう。 そのままでLEDを10個以上点灯させていますので、このままデコレーション用のLEDを外して自転車ライトの白色LEDをつないでしまえば点滅するんじゃ? いえいえ、そうは簡単にはゆきません。 自転車ライトでは電源(電池)の電圧が倍の6V(ニッケル水素電池では4.8V)であること。 白色LEDの点灯電圧は3.2V〜3.6V程度以上はかけてやらないといけないこと。 そのまま3V電源で動いているこの点滅回路をただ単に配線を切って繋ぎ変えるだけではすみません。 『6V(4.8V)の電源で、白色LEDを点灯させる』ために改造を行います。
この回路が6Vの電源でも正常に動けば何の問題もありません。
中のICがどんな回路・定格なのかは全く不明ですので、6Vでも動作することを期待して、LED側には6V用に電流制限抵抗をつけて試しに電池4本に接続してみました。 ・・・5秒でICが焼けて溶けました(笑) 数秒間はしっかり点滅していたのですが、スッと点滅が止まり、ICを覆ったモールド部からパチパチという半導体の焼ける音と臭いが出始め、ショートした回路に流れる大電流で過熱して白い煙が立ち始めました。香ばしい香りがあたり一面に広がります。 このICは3V+α以上の耐圧は無いようです。 しょんぼり・・・
ということは、6Vの自転車ライトで使用するには、このIC用に3Vの電源を供給しなければなりません。 6→3Vの直流定電圧電源(レギュレータ)とか、DC-DCコンバータとかが必要!? ・・・とかいう凄いことにはならないようにしたいものです。 なにしろ元は105円の代物です。 LEDや、ドライブ用のトランジスタは外してIC単体での消費電流を測ります。 約20〜30μAでした。 マイクロアンペアオーダーなので、気合を入れた電源回路なんて用意しなくても、抵抗2本で分圧する程度でじゅうぶんです。 1KΩを2本(10円)で電源を50%に分圧して3V(2.4V)を供給することにします。 テストをしてみて特に問題は無し。元気に発振しています。 電源問題はこれで解決。(一個焼いたけど…まぁ105円だし…)
デコレーションプチライトの点滅パターンはつぎのようになっています。
※ 電源電圧・温度等により多少変化します
イルミネーションとして使用するにはパッ…パッ…パッ…と点滅して綺麗なのですが、自転車ライトとして使用するにはちょっと点灯時間が短すぎて目立ちませんし、点滅しながらでも前を照らす為には点灯比1/4では暗くてたまりません。 点灯比を50%程度にするとか、点滅周期をもう少し早くしたいとか、希望はいくつもありますが、細かい時間設定はモールドされた中のICで決められていますので手を出すことはできません。 点灯比を変える(50%に)くらいならC・Rで回路を組めば簡単にはできそうです。 しかしC・Rを追加して色々と時定数を弄るのもなんだかなー、という感じなので、どうせパーツを一個か二個追加するのなら今回はサクっと点灯と消灯の動作を反転させてしまいましょう。 こんな感じにしようと思います。
ちょっと点滅は遅い感じはしますが、点灯してるライトが1秒間に2.5回フラッシュするので対向者に注意を喚起するにはじゅうぶんです。 改造ポイントを探します。 元からあるPNPトランジスタを活かして、更にトランジスタを一個増やして2段の反転回路にする方法も良いでしょう。 しかしもっと簡単に、今あるPNPトランジスタは外してしまって代わりにNPNトランジスタを使って動作極性を反転させてしまえないでしょうか? もしICの出力がC-MOSタイプで、VDDとVSSの両方に電圧が振られているのであればトランジスタを交換するだけで済みます。(制限抵抗は必要だけど…) 調べてみました。 出力端子に何も繋いでいない状態でオシロスコープで波形を観測します。 残念ながら、電圧は全く出ていません。 本来の点灯サイクルの0.1秒間は波形が0Vで安定します。消灯サイクルの0.3秒は波形に乱れが生じます。周囲からの誘導ノイズを拾っているようです。 元の回路図とこの観測結果から「このICの出力はオープンドレイン(オープンコレクタ)タイプである」ということがわかります。 なら話は簡単。VSSへの引き込みはできるのですから、プルアップ抵抗(電源からのバイアス抵抗)を付けてNPNトランジスタにベース電流を流すようにし、それをICの出力で引き落とせば元の点灯サイクルではICに電流を引き込みトランジスタを停止させ、消灯サイクルではオープンでバイアス抵抗からのベース電流でNPNトランジスタを動作させてLEDを点灯させる回路を作れば良いだけです。 NPNトランジスタを付ける前に、本当にこのICがオープンドレイン出力で、じゅうぶんに電流を引き込む能力があるのかを確かめます。 電源と出力端子の間に1KΩの抵抗を接続し、出力端子の電圧の変化をオシロスコープで観測します。 電源電圧と0Vの間を綺麗に往復している波形が観測できましたので、この負荷(1K)の場合はじゅうぶんに電流を制御できることが確認できました。 * 写真はトランジスタまで接続してLED点灯テスト中 これで今回の改造の為のテストや考察はほぼ完了です。
目的の機能を実現する回路図はこちら。
ICへの電源は6Vを抵抗で分圧。 LEDドライバのトランジスタをNPNタイプ(2SC2120)に交換し、プルアップ抵抗(1K)を追加。 電源+とトランジスタのコレクタの間にライトに取り付けているLEDと電流制限抵抗抵抗が繋がるようにします。 常時点灯スイッチはオマケです。 電源電圧はアルカリ乾電池使用の場合の6V(+α)を最大にしていますが、実際はニッケル水素電池を入れていますので充電直後を除いて約5V以下です。 LEDの制限抵抗はニッケル水素電池の電圧が平均的な値を維持している期間にあわせて(それでもちょっと明るい目に)調節していますので、オーバードライブです。電池が充電直後の場合1個につき35〜39mA程度流れます。心配な場合は50〜60Ωが良いでしょう。 今回使用した2SC2120はIc=800mA,hfe=160〜320(Y)です。(2SC2710でも良い) 今回の回路では計算上は電源電圧が4V程度にまで下がっても、コレクタ電流は500mA程度流せます。ライトを10LEDにしても余裕になるよう設計しています。 2SC2120のデータシート(日本語)はこちら
2SC2710のデータシート(日本語)はこちら
S8550はIc=700mA,hfe=110(typ)、SS9012はIc=500mA,hfe=90(typ)です。元々のデコレーションプチライトでは(電池の状態にもよりますが)200〜400mA近くの電流が流れていますのでこれくらいの電流容量のトランジスタを使用しています。 改造記事や電子回路図集でも最もポピュラーな小信号用NPNトランジスタ2SC1815ではIc=150mA(MAX)ですのでプチライトのLED(赤や緑、しかもちゃんと電流制限抵抗を繋いで一個につき10mAに制限した場合)を15個以上つなげると定格オーバーとなります。いきなり壊れませんが、プチライト改造に2SC1815を使う方は注意しましょう。 2SC1815のデータシート(日本語)はこちら
最近入手できるS8550が付いている基板のものを改造に使用しました。
SS9012が付いている基板の場合は左右反転して見てください。 元の基板からS8550を取り外します。 取り外した場所に2SC2120と抵抗3本をとりつけます。 この時に2SC2120のエミッタの足(写真では右端)は基板の外を通して電源−点まで伸ばしてハンダづけします。 電源−とICチップの電源端子(左上)の間の抵抗も基板の外を回すようにとりつけていますが、こちらは基板の上(チップの上を渡るように)に載せてしまっても構いません。写真が見やすいようにしているだけです。 いよいよ自転車ライトの中に組み込みです。 前回の記事作成の後に白色LEDを4灯化して明るさアップ!した100円ライト【改】ですが、ハロゲン電球の点灯スイッチとは反対側に空きスペースがありますのでそこに「常時点灯スイッチ」と「点滅基板」を組み込みます。 電池からの電源、前面LEDユニットとの配線、常時点灯スイッチとの接続などを行えば改造は完成です。 点灯テストを行って異常が無いかを確かめた後、基板にはビニールテープをぐるぐる巻いて他の部分とショートしないよう保護をして隙間に押し込みます。 なにしろ電源がニッケル水素電池ですから、もしショートしたら大電流が流れ、たいへんな発熱をしてライトのプラスチック部品が溶けたり発火する危険性があります。 「たかが電池でつくライト」と気を抜かないようにしましょう。
こんな感じで点滅しています。
実際に自転車に付けても市販の1000円以上するLED点滅ライトとひけをとらない視認性です。 ● 今回の改造部品代
デコレーションプチライトの点滅基板を応用した回路例、いかがでしたでしょう。 コンパクトにまとめられていて、500mAくらいまでなら電流も流せる良く出来た基板ですのでそのまま流用するもよし、今回のように一部改変して別の機能のものに改造するもよし。105円で簡単に入手できる発振・点滅回路としてはかなり幅広い応用が期待できる商品ですね。 100円ショップ自転車ライトの白色LED化記事はこちら。
★ LED(発光ダイオード)の電流制限抵抗の計算機 ★もあります 記事掲載: 2006/10/29
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